口腔習癖と不正咬合:原因・影響・予防策について詳しく解説【②舌を前方に押し出す癖(舌突出癖)編】
「気づくと舌が前歯に当たっている」「発音がなんとなく不明瞭」「飲み込むときに舌を押し出してしまう」――こんな経験はありませんか?
これらは 「舌突出癖」 と呼ばれる習慣の一部かもしれません。舌突出癖とは、無意識のうちに舌を前方に押し出す動作を繰り返してしまう癖のことです。一見すると何気ない動きですが、 実は歯並びや噛み合わせ、発音、さらには口腔機能全体にまで影響を及ぼすことがある のです。
特に、舌が常に前歯を押し続けることで 「開咬(上下の前歯が噛み合わない状態)」 や 「上顎前突(出っ歯)」 を引き起こすことがあるといわれています。さらに、舌の動きが正しく機能しないと、食事や会話にも支障をきたすことがあるのです。
しかし、舌突出癖は 正しい知識を持ち、適切なトレーニングを行うことで改善できる 可能性があります。この記事では、舌突出癖の 原因・影響・改善方法 について詳しく解説していきます。あなたやお子さんの歯並びや発音に気になる点がある場合は、ぜひチェックしてみてください。
「舌突出癖」とは?
「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」とは、舌が 無意識のうちに前方へ押し出される 習慣のことを指します。特に 飲み込むとき(嚥下時)や安静時(何もしていないとき)に舌が前歯に触れる、または押し出す動作をする のが特徴です。
本来、舌は上顎の前歯のすぐ後ろの「スポット」と呼ばれる位置にあるのが理想ですが、舌突出癖があると 常に舌が前歯を押し続ける ことになり、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼすことがあります。
この癖は 幼児期から小児期にかけて見られることが多く、多くの子どもは成長とともに自然に治ります。しかし、 指しゃぶりや口呼吸、間違った嚥下(飲み込み)の癖が続くと、舌突出癖が固定化 し、大人になっても無意識のうちに続いてしまうことがあります。
また、舌突出癖は 「発音のしづらさ」 や 「食事中の飲み込みにくさ」 などの口腔機能にも影響を与えることがあります。例えば、サ行(さしすせそ)やタ行(たちつてと)を発音するときに舌が歯に当たり、発音が不明瞭になる ことがあります。
このように、舌突出癖は 見た目の問題だけでなく、発音や食事など日常生活にも関わる ため、できるだけ早く対策をとることが重要です。では、次にこの癖が歯並びにどのような影響を及ぼすのかを詳しく見ていきましょう。
「舌突出癖」が与える影響
舌突出癖は、歯並びや噛み合わせ、さらには発音や食事のしやすさ にも大きな影響を及ぼします。特に、舌が前歯に持続的な圧力をかけることで、歯列や顎の発育に悪影響を与えることが知られています。ここでは、具体的な影響について詳しく解説します。
1.開咬(かいこう)の原因になる
舌突出癖があると、上下の前歯が適切に噛み合わなくなり、前歯の間に隙間ができる「開咬」 を引き起こしやすくなります。本来、歯は上下でしっかりと噛み合うことで、食べ物をしっかりと噛み切る役割を果たします。しかし、舌が前歯を押し続けることで、歯が前方に傾いたり、上下の歯が適切に接触しなくなる のです。
開咬による具体的な影響:
✔ 食べ物をしっかり噛み切れない(特に麺類や肉類など)
✔ 発音が不明瞭になりやすい(特にサ行やタ行)
✔ 見た目の問題(歯が前に突き出ることで、口が閉じにくくなる)
2.上顎前突(出っ歯)の原因になる
舌突出癖があると、舌が常に上の前歯を前方に押し続ける 状態になります。その結果、上顎の前歯が前方に傾き、出っ歯(上顎前突) になりやすくなります。
上顎前突による具体的な影響:
✔ 口が閉じにくくなり、口呼吸の原因になる
✔ 外傷のリスクが高まる(前歯が前に出ているため、転倒や衝突時に歯が折れやすい)
✔ 顎のバランスが崩れ、顔全体のプロポーションに影響を与える
3.歯並び全体の乱れにつながる
舌は強い筋肉であり、舌の圧力が持続的に歯に加わると、歯が本来の位置から動いてしまう ことがあります。これにより、歯の並びがガタガタ(叢生)になったり、歯の隙間が広がる正中離開(すきっ歯)になったりする 可能性があります。
4.噛み合わせの悪化と顎関節への負担
舌突出癖があると、前歯で噛めないために奥歯ばかり使う癖 がつきます。その結果、噛み合わせのバランスが崩れ、特定の歯に負担が集中する ことで、顎関節症(TMD)のリスク も高まります。顎関節症になると、顎の痛みや開閉時の違和感、頭痛や肩こり などの症状が現れることがあります。
5.発音や話し方への影響
舌突出癖があると、舌が前歯を押すため、特定の発音(サ行・タ行)が不明瞭になりやすい ことが報告されています。舌が正しく機能しないと、言葉がはっきりしなくなり、コミュニケーションにも影響を及ぼすことがあります。
6.口呼吸の助長
舌突出癖があると、口を閉じにくくなる ため、口呼吸になりやすくなります。口呼吸は口腔内を乾燥させ、虫歯や歯周病、口臭のリスク を高めるだけでなく、全身の健康にも悪影響を与える可能性があります。
舌突出癖が歯並びや健康に与える影響は、意外と多岐にわたります。次の章では、この習慣を改善するための具体的な方法について詳しく解説します。
「舌突出癖」を改善する方法
舌突出癖は、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼすため、早期に対策を取ることが重要です。以下では、具体的な改善方法を紹介します。
1.正しい舌の位置を意識する
舌の正しいポジション(スポットポジション)
舌の正しい位置は、舌の先端が上顎のスポット(上の前歯の後ろにある口蓋部分)に軽く触れている状態 です。舌が常にこの位置にあることで、歯や顎の正常な発育をサポートします。
トレーニング方法
- 鏡を見ながら、舌の先をスポットに当てる練習をする
- 唇を閉じた状態で、舌全体を上顎に押し付ける
- 噛んだガムを舌の先端でスポットに押し広げる動作を繰り返す
2.口腔筋機能療法(MFT)の活用
口腔筋機能療法(MFT: Myofunctional Therapy)は、舌や口周りの筋肉を鍛えて、正しい口腔機能を獲得するためのトレーニング です。舌突出癖の改善にも効果的で、歯科医院で専門的な指導を受けることが推奨されます。
代表的なMFTエクササイズ
- スポットタッチ:舌の先を上顎に当てて10秒間キープ
- スワローエクササイズ:舌を上顎に押し当てたまま水を飲む
- 口輪筋トレーニング:ストローを使って水を吸い上げる練習
3.口呼吸の改善
口呼吸は、舌が正しい位置に収まらない原因の一つです。口呼吸を改善することで、自然に舌がスポットポジションに収まりやすくなります。
改善方法
- 鼻呼吸の習慣化:意識的に鼻で呼吸する時間を増やす
- 鼻の通りを良くする:鼻炎やアレルギーがある場合は耳鼻科を受診
- 鼻呼吸トレーニング:ガムを噛みながら口を閉じ、鼻で呼吸する練習をする
4.舌突出癖を防ぐための生活習慣
舌突出癖を改善するためには、日常生活の習慣を見直すことも重要 です。
✅ 食事の際の習慣
- 柔らかい食べ物ばかりではなく、適度に噛む必要のある食品(例えば根菜類やナッツ類)を取り入れる
- 食べる際に舌の動きを意識し、前方に押し出さないようにする
✅ 姿勢の改善
- 猫背にならないように意識する(姿勢が悪いと舌の位置もズレやすくなる)
- デスクワークやスマホ使用時の姿勢を正しくする
5.舌突出癖が改善しない場合は専門家に相談
舌突出癖がなかなか改善しない場合は、歯科医師や矯正専門の歯科医院に相談するのが最も効果的 です。場合によっては、矯正治療や専門的なトレーニング(MFT) が必要になることもあります。
👨⚕️ 歯科医院での対応
- MFTの指導(専門的なトレーニングの提供)
- 必要に応じた矯正装置の使用(例:口蓋装置など)
- 舌の筋力を測定し、適切なプログラムを組む
まとめ
舌突出癖は、不正咬合や顎関節への負担、発音障害など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。しかし、適切なトレーニングや生活習慣の見直しによって改善が可能 です。
✔ 改善のためのポイント
✅ 舌の正しい位置を意識する(スポットポジション)
✅ 口腔筋機能療法(MFT)を取り入れる
✅ 口呼吸を改善し、鼻呼吸を意識する
✅ 食生活や姿勢を見直す
✅ 必要に応じて歯科専門医のアドバイスを受ける
舌突出癖が気になる方は、セルフチェックを行い、必要であれば専門家の診断を受けることをおすすめします。正しい舌の使い方を身につけることで、健康な歯並びを維持し、快適な生活を送ることができます。
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