口腔習癖と不正咬合:原因・影響・予防策について詳しく解説【① 指しゃぶり(吸指癖)編】
口腔習癖とは?指しゃぶりと歯並びの関係
「子どもの指しゃぶり、いつまで続くの?」「大人になっても影響が残る?」こうした疑問を持つ保護者の方は多いのではないでしょうか。指しゃぶりは幼児期にはよく見られる行動ですが、長期間続くと歯並びや顎の成長に影響を与えることがあるといわれています。
本記事では、指しゃぶり(吸指癖)がどのように不正咬合(ふせいこうごう)を引き起こすのか、その影響と予防策について詳しく解説します。研究データを基に、適切な対策についても紹介しますので、お子さまの成長をサポートするための参考にしてください。
【1】指しゃぶり(吸指癖)とは?
指しゃぶり(吸指癖)は、主に幼児期に見られる習慣的な行動であり、指を口に入れ、吸うことで安心感を得る行動のことを指します。生後6か月~1歳半頃に多く見られますが、成長とともに自然に消失することが一般的です。持続的に行うことで歯列や顎の発育に影響を与えることが報告されています。
指しゃぶりの影響が出やすいのは、特に以下のような場合です。
• 4~5歳を過ぎても指しゃぶりの習慣が続く
• 強く吸う・指を深く口の中に入れる
• 長時間(寝る前・日中も含めて)指を吸っている
【2】指しゃぶり(吸指癖)の原因
指しゃぶりが習慣化する要因は、幼少期の発達や心理的要因と深く関係しています。
1. 生理的欲求(口唇期の反射)
- 乳幼児期(0〜2歳)の赤ちゃんは、本能的に吸う行動を行うため、指しゃぶりはごく自然な習慣とされています。
- しかし、3歳を過ぎても続く場合、習慣化してしまうリスクが高くなります。
2. 精神的な安心感
- 指しゃぶりは、不安やストレスを和らげるための自己安定行動として知られています。
- 「眠る前」「退屈なとき」「親と離れるとき」に見られることが多く、安心感を得るための行動として続いてしまうことがあります。
3. 口腔習癖としての固定
- 長期間続くと、無意識に指を口に入れる動作が定着し、歯や顎の発育に影響を及ぼすことがあります。
- 特に、指を強く吸ったり、長時間吸い続けたりする場合、前歯に持続的な圧力がかかるため、歯並びが変化しやすくなります。
【3】指しゃぶりが歯並びに与える影響
長期間の指しゃぶりは、口腔内に持続的な圧力をかけるため、以下のような不正咬合を引き起こす可能性があります。
① 上顎前突(じょうがくぜんとつ・出っ歯)
上顎が指の圧力によって前方に成長しすぎたり、下顎の成長が抑制されたりすることで、上下の顎のバランスが崩れる可能性があります。
指しゃぶりをすることで、上の前歯が前方へ傾斜することがあり、いわゆる「出っ歯(上顎前突)」の原因になります。これにより、口を閉じにくくなる、発音に影響を与えるといった問題が生じることがあります。
② 開咬(かいこう・前歯が噛み合わない状態)
指が上下の前歯の間に入り込むことで、前歯が噛み合わない「開咬(かいこう)」の状態を引き起こす可能性があります。開咬があると、食べ物を前歯で噛み切れない、発音がしにくくなるといった支障が生じます。
③ 口腔機能の発達への影響
指しゃぶりが長期間続くと、前歯が噛めなくなり隙間ができてきます、そのため口呼吸になったりや舌で隙間をうめる癖(舌突出癖・ぜつとっしゅつへき)を助長する可能性があるといわれています。これにより、舌の筋力が低下し、正しい嚥下(飲み込み)の機能が身につかず、これにより、口呼吸の習慣がついてしまうなどの問題も考えられます。
【4】指しゃぶりをやめさせる方法(対策)
指しゃぶりの影響を最小限に抑えるためには、早期の対応が重要です。以下のような方法が有効とされています。
① 指しゃぶりの原因を理解する
指しゃぶりはストレスや不安を和らげるための行動であることが多いため、急にやめさせようとすると逆効果になることがあります。まずは、お子さまが指しゃぶりをする理由を観察し、安心できる環境を整えることが大切です(AAPD, 2023)。
ポジティブな声かけ
無理にやめさせるのではなく、子ども自身が「やめたい」と思えるような声かけが重要です。
例
❌「やめなさい!」 → ⭕「指しゃぶりをしないと、お口がもっと(かっこよく・かわいく)なるね!」
❌「そんなことしてたら歯が悪くなるよ!」 → ⭕「お口の中がもっときれいになるように、一緒に頑張ってみようか!」等
② 指しゃぶり防止用のグッズを活用する
指しゃぶり防止用の手袋や専用の爪塗料を使用することで、自然にやめるきっかけを作ることができます。また、夜間の指しゃぶりが問題となる場合は、腕カバーを装着するのも一つの方法です。
③ MFT(口腔筋機能療法)の実践
MFT(口腔筋機能療法)は、舌や口周りの筋肉を鍛え、正しい口腔機能を習得するためのトレーニングです。
舌の正しい位置を保つために、口腔筋機能療法(MFT)を取り入れることも推奨されています。例えば、以下のようなトレーニングが効果的です。
MFTの効果
- 舌の正しい位置を学ぶ → 指しゃぶりによる舌突出癖を改善
- 口をしっかり閉じる習慣をつける → 口呼吸を防ぎ、歯並びへの影響を軽減
- 嚥下(えんげ)の正しい動作を身につける → 指しゃぶりによる悪い嚥下癖の改善
MFTの一例
- ポッピング(舌の筋力強化)
-
舌を上顎につける
- 舌の先をスポット(上顎の前歯のすぐ後ろ)に置きます。
-
舌全体を吸い付ける
- 舌全体を上顎の口蓋側に吸いつけながら舌小帯(舌の裏のすじ)をのばします。
-
舌を勢いよく離す(ポップ音を出す)
- 舌を一気に離し、「ポン!」と音を鳴らす。
-
繰り返す
- 10回×3セットを目安に行う。
-
- スラープ&スワロー (嚥下・飲み込むことの練習)
-
舌を上顎につける
- 舌の先をスポット(上顎の前歯のすぐ後ろ)に置きます。
-
ストローを使用する(オプション)
- 上の犬歯の後ろにストローを置き、軽く歯を噛み合わせます。 。
-
水を口に入れる
- スプレーボトルで口の横から奥歯に向かって水を吹き入れ、音を立てて水を吸い込みます。
-
飲み込む
- 舌の先をスポットにつけたまま、奥歯を噛み合わせた状態で唇を軽く閉じ、唇や頬の筋肉に力を入れずに飲み込みます。
- 繰り返す
- 左右交互に5回ずつ、計10回行います。
-
他にも様々なMFTの方法があり、矯正治療前後の補助としても活用され、不正咬合の予防や改善に役立ちます。
④ 歯科医師の指導を受ける
指しゃぶりが4~5歳を過ぎても続く場合は、専門の歯科医師に相談することをおすすめします。矯正治療が必要になるケースもあり、早期の介入が重要です。
【まとめ】指しゃぶりと歯並びの関係を理解し、早めの対策を!
指しゃぶりは幼少期には自然な行動ですが、長期間続くと歯並びや口腔機能に悪影響を及ぼす可能性があります。上顎前突(出っ歯)、開咬(かいこう)、口呼吸の習慣化、顎の発育の不均衡など、さまざまな問題が発生することが報告されており、適切な対応が必要です。
対策としては、指しゃぶりの原因を理解し、早期に無理なくやめる方法を取り入れながら習慣を改善し、適切な予防策を講じることが重要です。また、専門家の指導を受けながら、舌の正しい位置を維持するトレーニングを実施することで、口腔機能を健全に発達させることが可能です。
お子さまの指しゃぶりが続いている場合は、一度矯正歯科に相談し、必要なアドバイスを受けることをおすすめします。
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参考文献
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- Huang, G., et al. (2018). "Effects of prolonged digit sucking on occlusion and dental arch form." Journal of Clinical Pediatric Dentistry.
- Kramer, F. J., et al. (2020). "Oral habits and their effects on malocclusion: A systematic review." International Journal of Pediatric Dentistry.
- American Academy of Pediatric Dentistry (AAPD). (2023). "Guidelines on Oral Habits and Their Management in Children."
- Carr, H., Williams, M., et al. (2021). "Long-term effects of non-nutritive sucking habits on dental occlusion: A systematic review." Journal of Clinical Pediatric Dentistry, 45(3), 189-198.
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- Warren, J.J., Bishara, S.E. (2020). "Duration of nonnutritive sucking behaviors and their relationship to the dental arch and occlusion in the primary dentition." Journal of the American Dental Association, 151(3), 219-225.